山の河原 曇天 助け屋、山にBBQしにきてる ジューー(食材を焼く音) 「BBQ!BBQ!」 「うっさいわねーさっきからー そんなに嬉しいの?」 「嬉しい!オレ初めてだもん!!BBQ処女卒業!」 「あたしも!」 「ふふっ よかったわ 喜んでもらえたなら 計画して正解だったわねえ」 肉をモグモグしてるあーちゃん 「強いて言うなら天気が残念だったねー 来る時は晴れてたのにね」 「山の天気は変わりやすいからな」 「ましろ〜ビールのおかわりある?」 「あっごめん もう無くなっちゃったのよねえ」 「えー!!早!」 「確か来る途中に売店あったよね? お酒も売ってた気がするからあたし買ってくるよ! 自分の分も欲しいし」 「あらいいの?悪いわねえ」 「…オレもついてく」 「あーいいよ!走って行ってくるからさ! シベ太たちはゆっくりしててー」 「やーいふられんぼう」 ジト目であーちゃんを睨むシベ太 「気をつけろよ」 「はーい」 走り出すキャッピー ターン ターン 山に響く銃声 飛び立つ鳥 「…なんの音…?」 第16話  『狼犬風牙』 ザー… ゴロゴロ… 急な大雨と雷 キャッピー、沢付近でうろうろ 「うわ〜 困ったな… 近道しようと思ったらよくわかんない場所に出ちゃった…」 すん… 空気の匂いを嗅ぐ 「多分あっちが来た道なんだよな 雨でにおいが消えちゃう…急がなきゃ」 沢沿いに歩いてると 岩場の茂みに横たわる風牙がいる事に気づく 目があう グルルル… 目を光らせて威嚇してくる 「わっ…!?」 その時、遠くの方から地元犬たちの会話が 「狼だー!狼が出たぞー!!」 「誰か襲われたんか…!?」 「いや、まだ誰も襲われてねェが いつやられっかわかんねえべ 弾はあてたが逃げられちまったらしい 早く駆除せんと…」 (狼…!?) 風牙をもう一度見るキャッピー (狼って確か… ハスキーに似た顔で…金色の目の…) はっ 風牙が流血して怪我をしてることに気付く 「すごい血が出てる… もしかして動けないの…?」 ヴヴヴ… 威嚇する風牙 「そのままじゃ死んじゃうよ… 川も近いし増水したら流されちゃう 安全なところまで運ぶからじっとしてて!」 「それ以上近づくな!!殺すぞ!!」 ガルルルルッ 「シッ!大きい声出さないで…!気づかれちゃうよ」 一瞬ひるむ風牙 手を差し出すキャッピー ガブッ 肩を思いっきり噛まれるが 気にしないで風牙を担ぐ *** シベ太たちの方 「キャッピーちゃーん!いたら返事しろー!」 叫びながら捜索 「くそ…雨で匂いがたどれねえ」 「どこまで行ったのかしら…?川の近くだったら危ないわ…」 「おーいおまえさんたちー!」 地元の犬が遠くから話しかけてくる 「ここらで狼みなかったかー!?」 「お…狼…!?」 「出たんだよ!ついさっき! 駆除するんで今探し回ってるとこだ お前さんたちも気を付けろよ! 狼に襲われたらひとたまりもねえからな!」 「聞いた…!?狼が出たって…!」 「ますますやべーじゃん…! まさか狼に食われたりしてねーだろーな…!?」 がさっ 近くの茂みが揺れる 風牙を背負って茂みからでてくるキャッピー かたまる3人 「うわッ…!?で、出たッ…!?って…」 どさっ 崩れ落ちる よく見ると風牙の下にキャッピーが埋もれてる 「え…っ キャッピーちゃん?!」 「…み…みんな…… 助けて…このままじゃ…この狼さん死んじゃう…から…」 噛まれたところが流血して弱り気味のキャッピー 「待って…キャッピーちゃんも大怪我してるじゃない…! なにがあったの…!?」 「話は後だ ここじゃ人目につく とりあえず車に運ぶぞ」 「ちょっ…マ…マジで言ってんの…!? 狼だぞ狼!やばくね!?やべーって!!」 「いいからあんたも手伝って!」 とりあえずバンに乗せて連れ帰る *** シベ太の家 布団に寝かされてる風牙  テレビでは狼出没のニュースが流れてる カラン… 風牙の手当てをするましろ 「傷口から銃弾が出てきたわ… 近辺の犬に撃たれて怪我を負ったのね…」 「そりゃ撃つだろ〜… こんなのがいきなり出てきたら… ったくよ〜…どーすんだおい… 大騒動になってんじゃねーか」 ガララ キャッピーとシベ太が病院から帰ってくる 「あっキャッピーちゃん! 傷大丈夫だった…!?」 「はい 傷口は縫って念のためワクチンも打ってもらいました 狼は狂犬病持ってるかもしれないからって…」 苦笑いしてるキャッピー 「ったく…笑ってんじゃねーよ 狂犬病は治療法がねえから 罹ったら100%死ぬんだぞ」 「だ…だよな…!?こえ〜… それで昔 町中が死体だらけになったんだもんな… この狼が罹ってるとは限らねーけどさあ 急に暴れだしたりしねえよな…?コイツ…」 「…う…」 目を覚ます風牙、見慣れない景色に飛び起きるが痛みで崩れる 「ダメよ、安静にしてなきゃ! 銃弾が3発も入ってたんだもの」 「どこだ…ここは…っ お前たちは……」 グルル… 「狼さん!落ち着いて…大丈夫だよ ここは町の中だけど誰もあなたの敵じゃないから」 「あ…あんたは…さっきの…」 威嚇をやめる風牙 「…言葉はわかるみたいだな なんで山から降りてきた?」 「…母さんを…探しにきたんだ 犬の町なら母さんが見つかるかもしれないって思ったから…」 「え…?お母さん…? でもあなた狼さんよね…? どうして町にお母さんがいると思ったの…?」 「オレは…本物の狼じゃない 母さんが犬なんだ」 「「…ん!?」」 かたまる一同 「ま、まって…ごめん  あたし狼のこと知らなすぎて…理解が追いついてないんだけど…」 「え…えっと…つまりあなたは 狼と犬の間に生まれた…って事?」 「そうだ」 「マジか…!狼と犬って子供作れんのかよ…」 「…母親は犬だが 狼として山で暮らしてきた、って事でいいか?」 「ああ オレは生まれた時から山育ちだ 小さい頃は父さんと母さんとオレで 狼の群れとは離れて暮らしてた だけど突然…狼の群れに襲われたんだ オレを逃がすために父さんに崖から投げられた記憶はあるけど それから父さんと母さんがどうなったのかは わからない… 今まで山中を探し回ってきたけど どうしても見つからなかった… だから…もしかしたら犬の母さんは 犬の町に戻って暮らしてるのかもしれないって… そう思って山の麓まで降りてきたんだ …でも」 回想 「狼が出たぞー!!」 ターン ターン 撃たれる風牙 「犬達はオレを…攻撃してきた…」 「それであそこに隠れてたんだね…」 「…大体の事情はわかった とにかく危害を加える為に降りてきたわけじゃねーんだな」 「…ここは…どこなんだ?」 「犬の町の…オレ達の住処の中だ さっきの山からはだいぶ離れてるが ここにはオレ達以外の犬は来ない あんたの傷が癒えたらまた山に送ってやる」 「……信じていいんだな」 「守らなければその時はオレ達全員 食い殺すなりすればいい」 え!?って青ざめた顔でシベ太を見るみんな 「…わかった…ありがとう オレは風牙だ よろしく頼むよ」 *** 別室 「しっかしどうすんだよー? ハーフだって言ってもどっからどう見ても狼だぜありゃ… 悪い奴じゃなさそうだけどさぁ」 「狼って見つかったらみんな殺されちゃうのかな…?  何もしてないのに…」 「…そのはずだ 犬と狼は互いの生活圏に侵入してはいけないし 破れば土地を所有してる側が殺してもいいことになってる」 「『狼犬』の風牙くんは…?」 「さあ…見た目が狼だし狼扱いなんじゃねーの? 群れずにひとりで暮らしてるみたいだけど」 「犬と狼ってそんなに仲が悪いのね… 私は蒼眼町出身じゃないから詳しくは知らないけど… 確か昔 狼達が町を襲ったのがきっかけだったのよね…?」 「ああ なんでかしらねえが 奴等は突然山から降りてきて町中の犬達を襲いやがったんだ 狂犬病を撒き散らしながらな 発症したら頭がイカれて 文字通り「狂犬」になっちまうだろ? 見境なくなんにでも噛み付いて… しかも最期は治療もできずに確実に死ぬっつー… そんな病気に罹った犬と狼で溢れかえって… まるでゾンビ映画だったぜ だから狼に顔つきが似てたオレ達(ハスキー)まで巻き添い食らった…って話さ」 ……。 「…あのさ… 風牙くんって山に住んでるんだよね? 生活の仕方ってあたし達(犬)とはだいぶ違うんじゃないかな…?」 顔を見合わせてかたまる全員 *** ・ましろと風牙 「風牙くん、食べ物は何食べるの?」 「ウサギとかシカだな」 「す…スーパーの牛肉とかはダメかしら…?」 「ぎゅう…?」 ・あーちゃんと風牙 「風牙ー!ダメダメ!」 するときはトイレですんの!! 「トイレってなんだ…?」 「こっち来い!教えるから!」 ・キャッピーと風牙とシベ太 「キャッピー…この間は噛んでごめんな」 べろっ 首筋を舐める 「ひゃっ!?」 「風牙…あのな オレ達(犬)は親しい間柄じゃなけりゃ 相手の体を不必要に舐めたりしないんだ」 「親しい…?キャッピーとはもう親しいぞ 命の恩人だしな」ニコニコ 「……。」 むくれてるシベ太 「プッ いいぞー風牙ー」 笑うあーちゃん *** 2週間後… 「うん、すっかり傷がふさがってるわ 治るの早いわねえ これならもういつでも帰っても大丈夫そうね」 「よかったねふーちゃん!」 「うん ましろが手当てしてくれたおかげだよ」 「一時はどうなるかと思ったけど 狼…じゃなくて狼犬でもダチになれるもんなんだなー 普通に馴染んでんじゃん なっ」 「オレも犬と仲良くなれるとは思ってなかったよ 母さん以外の犬は悪いヤツらなんだって… そう思って生きてきたから…」 「…でも…ふーちゃん帰っちゃうんだよね…?」 「……うん…」 「…… 風牙 これから山に帰ったとして… またしばらくしたら町に降りてくるつもりなのか?」 「…いや…さすがにわかったよ 狼がどれだけ犬達に嫌われてるのかも 犬の町じゃここ以外に身を隠す場所がないってことも… シベ太達は優しくしてくれたけど オレは犬達から見れば狼だからな だからもう山は降りないよ 母さんを探すのは…諦めようと思う」 「風牙くん…」 悲しそうな顔をする一同 「あのさみんな…ふーちゃんのお母さん探し なんとか手伝えないかな…?」 「…キャッピー、ありがとう でもいいんだ 犬のみんなを巻き込む訳にはいかないよ それに…母さんの手掛かりは何も無いけど 父さんならいつか見つかるかもしれないし」 「父さんって…狼の親父だよな?」 「うん 山のあちこちに間違いなく父さんの匂いが残ってるんだ 母さんの匂いはしないけど… ずっと消えない匂いだから きっと同じ山の中でまだ生きてるんだと思う」 「…? それだけ近くに匂いが残ってるのに 見つからないのか…?」 「うん…それはオレも不思議に思う… 遠吠えで呼びかけても返ってこないし… オレがそれだけ声を上げても 他の狼が近くに寄ってくることもなくて… 群れの仲間じゃない狼が縄張りにいたら 襲われてもおかしくないんだけどな まるで父さんも他の狼達も オレを避けてるみたいに…」 「…それじゃねえか?」 「え?」 「もし本当に避けられてるんだとしたら 探し続けても見つからないのは頷ける どうして避けられてるのかはわからないけどな」 「そうよねぇ… お父さんだって生き別れの風牙くんに会いたいはずだし… なのにわざわざ避ける理由があるのかしら…?」 …… 「…わかった! 犬のあたし達がふーちゃんと山に行けばいいんじゃないかな!」 「…正気か?」 「正気正気! だって狼達は縄張りに犬が入ってきたら殺しにくるんでしょ? 仮にふーちゃんを避けてるんだとしても あたし達が一緒にいるならきっと姿を現すと思うんだよね そしたらその狼達にふーちゃんのお父さんの事 聞いてみればいいんだよ!」 「お!それいいじゃん!それでいこ! ここでアレコレ考えててもしょうがねーしな」 「…だそうだ」 「み、みんな…でも…」 「でも危ないわよ… 狼さんの縄張りに入るなんて…」 「縄張りに入るのは最終手段だな まずは手前まで近付いて様子を見る それぐらいならオレ達でも協力できるかもしれない」 「…ありがとう…みんな ごめんな…危ない事に巻き込んで…」 「ううん、気にしないで!これも何かの縁だから!」 「そーそー!乗りかかった船!」 「ふ…ふね…??」 「そうと決まったら早速今夜 決行するぞ」 〜おわり〜